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森島酒造の新ブランドが完成しました

経営者の決断を受け止める。

「蔵の設備を整え直し、酒造りも一から学び直し、10年かけてようやくこれだ!という味にたどり着きました。そして森島酒造の主力ブランドを60年以上続いている『大観』から自分の名字を冠した新しい酒『森嶋』に変える決断をしました。少なくとも数十年続くブランドを作りたい」

最初に連絡を頂いたのが2018年の6月くらい。聞けば、森島酒造の専務であり同蔵元杜氏である森島正一郎さんとつくばの小野酒店小野公顕専務とお二人で、都内のデザイン事務所と新たなブランドづくりを開始されたのが2017年。ブランド名の決定、ラベルのデザインの決定、そして2018年に入ってからは、webのデザインもほぼ出来上り、同年5月にいよいよ公開→ブランド立ち上げ。という予定をすべて白紙に戻し、ブランドをはじめからやり直す決断をされ相談にいらっしゃったとのことでした。お二人曰く、日本酒は非常に成熟した市場で、消費者の舌も肥えており、しかも日本酒愛好家はその醸造過程にあるストーリー性を重んじる傾向が強いこと。そんな中、新潟や東北などの酒処ではない茨城の酒のブランドということもあり、新しいブランドとして認知されるためには、かなり振り切ったコンセプトと独自性のあるデザインが必要だと言う見解で一致しました。

この時、森嶋さんに言われた言葉が冒頭の言葉。デザインの仕事は、経営者のこういう決断の一翼を担う仕事なんだ、とこの時再認識したことが忘れられません。

ご希望では2018年の11月に最初の酒が出来上がるので、それまでにラベルのデザインを決めて発売まで漕ぎ着けたいとのことでしたが、事が事だけに、しかも前例もあることなので、ここは焦らずに必要十分な時間をかけて納得の行くものを作りましょう!とご提案しました。お二人にその提案を受け入れていただき、2018年はブランドコンセプトの立案〜タグラインの完成まで、ラベルのデザイン〜webサイトの公開を2019年にそれぞれ目標設定してプロジェクトがスタートしました。

「常識の逆を行け!」

ずっと茨城の酒のデザインに携わってみたいと思っていまして、ようやくその機会が巡って来ました。しかし日本酒のことについてほぼ知識がなく、はじめは大吟醸と吟醸酒の違い、純米大吟醸と純米吟醸の違いも分かりませんでした。「森嶋」のブランドづくりに携わりながら酒造りについて教えていただいたり、5銘柄ある酒を利き酒させていただて、それぞれの味の違いについて学んだり(個人的には雄町の火入れが好みです)、有名な酒、人気の酒を色々飲んだりしながら勉強させていただき、少しずつ日本酒についての知識を蓄積していきました。

ちなみに、『森嶋』は純米吟醸をメインにした食中酒。ワインのように食事とともに楽しむスタイルの酒です。これには「日本酒は特別なものではなく、日々の食事とともにその飲み方を自由に楽しんでほしい」という森嶋さんの酒造りの考え方がブランドに反映された結果です。(詳しくはwebサイト『森嶋』商品紹介ページの最後日常に小さな輝きを添える「食中酒」を目指して。をご覧ください。)

森島さんは、納得の行く自分だけの酒を追い求める中で、今まで当たり前だと思っていたことをすべて疑い見直したそうです。こうして改善していく過程では、これまで蔵での常識と思われていたことと逆のアプローチを結果的に選択するという場面もあったと聞きました。コピーライターの平嶋さんはそんな森嶋さんの自身の酒を追い求める姿勢から「常識の逆を行け!」という刺激的なコンセプトを提案してくれました。かなり攻めたコンセプトではじめは皆さんから抵抗がありました。しかし「すべてのことにこのくらいの気持ちで取り組まない限り現状を変える方法はない。」という気持ちが込められた言葉なので、自分の信じた酒づくりの道をひた走る森嶋さんにピッタリのコンセプトだと思い、強く推してコンセプトワードに決定してもらいました。

コンセプトワードがブランドを作っていくための「指標」になったことで、判断基準が定まりブレのない表現が可能となりました。なにかに迷ったときはこの言葉に立ち返り、どこかで見たことのあるような表現になってないか、蔵の未来を背負って立つに相応しいデザインになっているかを、チェックできるようになったのです。

TRUNKではこのように、経営理念やものづくりの根源的な思想からコンセプトを導き出し、川上から川下まで一気通貫したブランディングを提供しています。

森嶋さんの酒づくりのストーリー詳細についてはWEBサイトにある「『森嶋』が誕生するまで」をご覧ください。

次に、このコンセプトワードを発展させ、『森嶋』というブランドを一言で言い表した言葉(タグライン)「一石投じる一杯を。」が生まれました。この言葉には、「旨い酒は東北や北陸」という世間の常識や、茨城日立じゃそんなに美味い酒はできないでしょ?という世の中の思い込み、そしてそんな逆境での酒づくりで折れそうになる森嶋さん自身の心に、それぞれ「一石投じる」という意味を込めました。

タグラインが決定した翌年の2019年早々にラベルのデザインを開始しました。最初は「コンセプトもタグラインもしっかりしているから、あとはそれを視覚化すれば簡単だ」と思っていましたが、これが想像以上に難しかった。いくら考えても「どこかで見たことのあるような表現」になってしまう。数ヶ月で10種類以上のデザインを制作しましたが、どれも「超えられない感」が漂う残念なデザインにしかなりません。
ある日いつもように小野酒店の店頭で、デザイン案を他の酒と同じ棚に並べて検証していたとき、小野さんから「高級感があること。定番感があること。味とデザインの調和が感じられること(売れる酒は味とラベルデザインが調和しているとのこと)。そして棚の中でひと目で目につくこと(埋もれないこと)」という具体的な課題が提示されてようやく吹っ切れ、最終的なデザインが誕生しました。

ちなみに小野さん曰く「いかにもデザイナーがデザインしました」的なデザイン性の高いラベルは、企画モノとして発売当初は話題になるが、日本酒好きには響かないことが多く定番化しにくいそうです。つまり売れない。デザイナーからするとデザイン年鑑に載っているような、ステキなラベルデザインに挑戦したいと意気込むものですが、そういうデザインはかえって日本酒好きには、「シズル感」を感じないデザインと捉えられてしまう。つまり奇抜すぎるデザインはダメ、逆に定番感を履き違えてどこかで見たようなデザインになってもダメ、酒のラベルデザインは想像以上にハードルが高いのでした。

 

胴巻きラベルの石に込めた想い。

ラベルデザインに使われている石は森嶋酒造の蔵で使われていた大谷石のかけらで、東日本大震災で実際に崩れた蔵のものを使っています。石の置き方にもこだわりました。はじめは何も考えず、一番安定感のある底辺が広い面を底にしていたのですが、

安定感はあるものの面白みのない印象でした。撮影中ふとした拍子に、石の写真だけで個展を開催したことのある矢野津々美さんが絶妙のバランスの配置を見つけてくれまして、それで森嶋らしいバランスが決まりました。石は「他にはないラベルデザイン」の象徴です。おそらく日本酒のラベルにこんな風に石を使ったデザインはなく、唯一無二だろうと思います。

森嶋ブランドは、雄町 純米大吟醸、ひたち錦 純米吟醸 辛口、山田錦 純米吟醸、美山錦 純米酒、美山錦 純米吟醸 [しぼりたて生]の5種あり、それぞれ胴巻きデザインに銀、赤、黒、白、金のシンプルで強い配色を施しています。胴巻きの上の首巻きのデザインは同色斜めがけになっており、これも他の日本酒の首巻きにはないオリジナルの形にしました。さらに胴巻きラベルの高さ(幅)、首巻きの太さ(幅)、そこから見える瓶の見え方、それぞれの間隔を微調整し、何度も検証を重ねて最終的なバランスに落ち着きました。シンプルなデザインの場合には印刷にこだわりを!というわけで、文字(森嶋、Morishima)の部分はもちろん箔、石も透明箔を施し、さらに凸凹感を出すためにデボスを施し、石の質感を高めました。これは写真では絶対に伝わらない感触なので、ぜひお手にとって触れてみたいただきたいと思います。

ストーリー性のあるwebサイト

ラベルをはじめとしたパッケージデザインが9月に完成し、12月の公開に向けwebサイト制作が始まりました。大切にしたのは、見れば「森嶋」を飲みたくなること。webサイトでは森嶋が誕生するまでのストーリーを丁寧に綴りました。非常に読み応えがある内容です。読み終わったあとは間違いなく森嶋を飲みたくなるはずですので、ぜひご覧ください。

物語だけでなく、商品紹介の文章にも、矢野津々美さんが撮ってくれた蔵でのロケ写真にも、小沼渉さんが撮ってくれたブツ撮り写真にも、「森嶋」らしい感性が息づいています。

今後は海外展開を視野に入れて商品開発をしていきます。2019年暮れに投じられた「森嶋」という一石は静かにゆっくりと波紋を広げていきます。

今回、TRUNKにとって初めての酒のブランディングに携わらせていただきましたが、良いコンセプトも、ハッとするタグラインも、そして棚で目につくデザインも、すべてものの良さありき、商品のクオリティーが高ければこそ機能するものだということを実感しました。そう、『森嶋』は理屈抜きで「美味い酒」なのです。

TRUNKはビジネスで勝負をかけるクライアントに、質の高いアイデアとクリエイティブを提供し伴走するデザイン会社です。